八百万ING〈日本本来の創造・イノベーション〉シリーズ『2つのパラドックス』

*本記事は、ひとつの大きな物語の小さなピースです





『人間中心に発達してきたはずのテクノロジー・文明が、人間を内側から外側から、気づかぬうちに滅ぼす』


「人間中心主義」のパラドックス


西洋文化ベースの現代文明の二元論的な価値観に根ざす、人間中心主義的な創造・イノベーションは、「便利で快適」な暮らしをもたらす一方、サステナビリティの危機をはじめ、様々な人類共通の課題を引き起こしている。


これについては、西洋文化の基盤をなす一神教を司るローマ教皇フランシスコも、環境問題を取り上げた『回勅 ラウダート・シ』で、近代文明の根底にある極端な人間中心主義の見直しを強く促している。


しかしながら、サステナビリティの実現への世界的なアプローチやソリューションのほとんど(例えばSDGs、ゼロエミッション、サーキュラーエコノミー、ジオエンジニアリング、バイオミメティクス等)は、やはり同じ西洋文化ベースの二元論的な枠組みの中にある。


わずかな希望の光ともいえるのが、バイオミミクリーをはじめとして、自然観・人間観に立ち還る試みが存在することだが、それらも自然科学の唯物主義を脱しきって「解」を探る動きにはなっていない。


すなわち、一見、多彩なサステナブル・ソリューションが打ち出され、推し進められているようだが、根っこにある自然観・人間観、それに根ざす人間による創造の本質を変えられないため、それらが示す「解」は対症療法的な処方箋が中心となり、「原因療法」という選択肢が見えてこないのだ。


それどころか、サステナブル技術という名のもとで、気候変動を追い越して人類を滅ぼしかねない「諸刃の剣」のような創造・イノベーション(例えば原子力・AI・ゲノムテクノロジー転じて核兵器・AI兵器・生物兵器)に、有限のリソースが費やされ続けている。


ところが、同じく二元論的な枠組みの中で暮らす私たちには、自分が置かれているこうした現実を捉えることは容易でない。ただ、このまま二元論の眼差しの中に閉じこもったままでいる代償はあまりに大きい。その理由は、上に述べてきた危機だけではない。


人間中心主義的な創造・イノベーションは、先端技術が自然・人間に本来備わるサステナブルな機能・能力を次々と代替して行き、いわば、人間のロボット化・物質化を進行させている。さらには、ウェルネス・心豊かな暮らしなど、「無形」のものへと中心が移りつつある現代人の関心に訴求する各種製品・サービスを通して、肉体に留まらず心に関しても、ロボット化・物質化が急速に進められているのである。


人間中心に発達してきたはずのテクノロジー・文明が、人間を内側から外側から、気づかぬうちに滅ぼす――この「人間中心主義のパラドックス」は、私たちが気候変動による自然災害、地域紛争の頻発化・深刻化等に目を奪われている間に、人類のサステナビリティを脅かしているのである。



隠された「世界遺産」:多元論の智慧


人類が抱える諸課題への「原因療法」を施すにあたっては、それらの根源的原因が二元論的価値観にある以上、それとは異なる、多元論的な発想からの「解」の果たしうる役割が大きいことは明らかである。ところが、多元論的な智慧の宝庫である日本による、それを活かした独自の貢献が成果をあげているとは言い難い。人類にとって多元論の智慧は未だ隠れた資産のままなのである。


その理由のひとつは、明治維新から150年を経た現代にあっては、日本人自身が自らの根っこにあるはずの多元論的な文化の可能性や課題を、もはや二元論的な「眼差し」でしか見られなくなっていることだ。


そのため、日本の智慧の継承を目指す、あるいはそれを現代社会で活かそうとする取り組みが、意図せずに、多元論の智慧を二元論の枠組みの中におさめて二元論化・西欧化してしまうという、「文化継承のパラドックス」がいたるところで生じており、日本人が数千年に渡って受け継いできた有形・無形の資産は失われつつある。


明治維新後の近代化において「和魂洋才」を柱として掲げながら、「和魂」の本質を手放し「洋才」を取り入れることばかりに力を注いだ失敗の影響は、未だ日本文化をむしばみ続けており、そこから立ち直り、多元論の智慧を取り戻すことは、いまや人類の未来を左右する日本人に課せられた「宿題」となっているのだ。


(つづく)

文・八百万ING(やおよろじんぐ)



参考文献

教皇フランシスコ(2016)『回勅ラウダート・シ―ともに暮らす家を大切に』カトリック中央協議会

山折哲雄(2001)『鎮守の森は泣いている―日本人の心を「突き動かす」もの』PHP研究所

Benyus, Janine (1997) Biomimicry: Innovation Inspired by Nature. New York: Harper Collins. Gates, Bill (2021) How to Avoid a Climate Disaster : The Solutions We Have and the Breakthroughs We Need. New York: Random House.

IPBES (2019) Global assessment report on biodiversity and ecosystem services of the Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services. IPBES secretariat, Bonn, Germany. WWF (2018) Living Planet Report - 2018: Aiming Higher. Grooten, M. and Almond, R.E.A. (Eds). WWF, Gland, Switzerland.


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